タンパク質の構造予測

タンパク質の立体構造を知ることは、タンパク質の機能を理解し、生物のしくみを理解するのに重要な手がかりとなります。現在、さまざまな生物のゲノムの解読が進んでいますが、遺伝子から翻訳されるタンパク質で、立体構造がわかっていないタンパク質は、たくさんあります。このため、時間と労力をあまりかけない、コンピュータを使ったタンパク質の立体構造予測が期待されています。私たちは、データベースに蓄積された情報と、物理に基づく解析の両方から、タンパク質の立体構造を高い精度で予測する研究に取り組んでいます。

多量体構造予測

多量体構造予測

タンパク質は多くの場合、複数の同じ分子が会合して多量体(ホモマー)を形成しています。このため、他の分子との相互作用を詳細に解析する際には、タンパク質のホモマー状態の考慮が必要になります。私たちは、タンパク質のアミノ酸配列を入力として、立体構造、さらにホモマー状態の予測までを全自動で行うシステムの開発を行っています。

次の図は、NAD+ Synthetase(590残基×2,PDB ID: 3N05)のホモマー構造を、アミノ酸配列から全自動サーバーを用いて予測した結果です。上が予測構造、下が天然構造で、各分子の立体構造と2分子の相対配置を精度良く予測することができています。

予測構造の精密化

予測構造の精密化

構造モデリングのソフトウェアによって予測した構造を初期構造として、溶媒を考慮した分子シミュレーションを実行し、生体内でとる構造を予測する研究を行っています。図は、血清アミロイドP成分(SAP)タンパク質のSH2ドメインの構造を、チロシンキナーゼp56lckのSH2ドメインの構造を手本(鋳型)にして予測した結果を示したものです。
(a)は、SAPタンパク質の結晶構造で、それがわからないと仮定して予測しています。青色は結晶構造、赤色は予測構造です。色が濃い部分は、予測構造を作る際、対応する鋳型の構造が得られなかった部分で、予測構造が結晶構造と大きくずれているのがわかります。
(b)は、(a)の結晶構造と予測構造からスタートしてシミュレーションを行い、それぞれのシミュレーションでよく現れる代表的な構造を示したものです(色が対応しています)。シミュレーションにより、予測構造が結晶構造に近づいていること、またその構造は溶媒中で安定した構造をとっていることがうかがえます。
(c)は、(b)の図を部分的に拡大した図です。

予測構造の評価法

構造予測システムが生成する複数の構造から、さまざまな構造特徴をもとに、予測構造を選択する手法の開発を行っています。